おんにょの真空管オーディオ

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主に真空管を使用した自作アンプでの試行錯誤を公開しています。(お約束事) 追試は歓迎しますが自己責任でお願いします。

DC-DCを使用した10EM7シングルアンプ・回路設計

現在の仕掛品は5A6 CSPPアンプ試作機とロクタル管スーパーラジオだ。それに急きょ真空管アンプを追加する。3つが同時進行?よくやるよなあ。

 

高圧スイッチング電源を使った真空管アンプを考えてみた。最初は何が起こるかわからないから、ごく簡単なシングルアンプにしてみようと思う。

 

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ヒーターに24VのACアダプターを使いたい。10EM7はどうだろう?これは以前Antique Electronic Supply10EW7を注文した時に、3本だけ間違って入っていたもの。

 

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6EM7のヒーター電圧違いのタマで、μ=68の三極電圧増幅ユニットと、三極電力増幅ユニットが1本の中に入っている。10EM7のヒーターを2本直列にして、24Vから抵抗で電圧を下げるだけでOKだ。 せっかくだから私がやった回路設計手順を紹介しよう。

 

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いきなりEp-Ip特性図だ。これはunit2の電力増幅部のもの。10EM7はスイッチング電源を1個だけ使いたいので軽く動作させたい。電流を抑えるとどうしてもロードラインが寝てくるので、OPTの1次インピーダンスを7KΩとしてみた。

 

自己バイアスで動作させるから、グリッド電圧とプレート電圧とOPTの降圧分を足したものが+B電圧となる。動作点をEb=180V、Ip=25mA、Eg=-32Vとしてロードラインを引いてみる。動作点〜Eg=0Vの長さと、動作点からIp=0mAとなる長さを物差しで計って同じくらいの長さにしてある。

 

出力を見積もってみる。25(mA)^2*7(KΩ)/2000=2.2Wと計算された。実際はOPTの損失があるので1.8Wくらいかな。私の環境では十分な出力だ。

 

+B電圧はOPTの降圧を7Vとして、180+32+7=219Vとなる。電流は初段を1mAくらいとしてステレオで(25+1)*2=52mA。

 

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DCDCの出力電圧と電流に上記の電圧・電流を点で書き入れてみた。電圧が下がるまで10mAくらい余裕を持たせている。本当はDCDCが電圧の下がるぎりぎりまで電流を取ったほうが、スイッチング周波数も高くなって効率が良くなるはず。

 

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次はunit1の電圧増幅部のEp-Ip特性図。+Bを219Vとしたので、デカップリングによる降圧を4Vだけちょびっと取って215Vとする。利得を欲張って200KΩのロードラインとかにすると周波数特性の高域の落ちが激しいから、低めにして100KΩで線を引いてみた。

 

動作点はやはり直線の真ん中らへんにしてEb=130V、Ip=0.9mA、Eg=-1.7Vとなる。 ここで利得の計算をしてみよう。 unit2のグリッド抵抗を470KΩとすると、交流のロードラインは100KΩ//470KΩ=82.5KΩとなる。電圧増幅部のrp=40KΩ、μ=68(これはRCAのデータシートそのまま)なので初段利得は82.5K/(40K+82.5K)*68=45.8倍となる。

 

次に出力段〜OPTの利得を計算する。電力増幅部のμ=5.4、rp=750Ω(データシートより)、OPTの変圧比は√(7KΩ:8Ω)=29.6:1。OPTの損失を0.8として、利得は5.4*7K/(750+7K)/29.6*0.8=0.132倍。

 

総合利得は45.8*0.132=6.0倍。これくらいの値だと、NFBをかけるのにぎりぎりの利得だ。

 

そもそもNFBをかけるのは残留ノイズ低減、ダンピングファクタ向上、周波数特性・歪率特性の向上といったもので、今回の場合ヒーターをDC点火、+Bは数10mVのノイズで高周波であること、ダンピングファクタはOPTの1次インピーダンスを高くとってrp(=750Ω)の低い出力管を使っている、周波数特性は初段に高rp管(=40KΩ)を使い高域を意図的に落としている、歪率はシングルだしきっぱりとあきらめる!などを考慮するとNFBは不要、と判断した。

 

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ごちゃごちゃ書き連ねてきたけど、現状の回路は上記のようになった。すっげー簡単。C4とR4によるデカップリングを設けてあるのはDCDCの出力インピーダンスがわからないためで、十分低いと思うが一応入れてみた。C3が+Bにつながっているのはクロストークを気にしたためと音色の好みによる。OPTはそんなにDC電流を流さないのと、見映えを考慮して春日無線のKA-5730を起用する。

 

ここでヒーターと直列に入れているR7のはなしをしよう。スイッチング電源でヒーターを点火した場合に問題となるのが、起動時に保護回路が働いて点火できないという問題。これはヒーターが冷間時に抵抗が低く、電流が流れすぎてしまうことに起因する。

 

10EM7の冷間時のヒーター抵抗を測ってみると2.5Ω。2本直列で5Ω。R7は7.5Ωだから24V/(5Ω+7.5Ω)=1.92A流れることになる。+Bは真空管がヒートアップするまで流れないから、ACアダプターの容量は2A程度あれば起動できる計算になる。

 

今回は2.9AのACアダプターを使うので大丈夫とは思うが、もしダメだったら小ワザを使わなければいけないかもしれない。