おんにょの真空管オーディオ

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古(いにしえ)の真空管を使った好音質のアンプで音楽を聴きましょう。(お約束事) 追試は歓迎しますが自己責任でお願いします。

12B4A全段SRPPアンプ・総集編

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12B4Aをヤフオクで入手した。この球はテレビ用の三極管で垂直偏向出力用だ。角度によっては赤熱するカソードが見えて美しいので、これを使ってアンプを作りたいと思った。

 

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自宅で使うには出力は1ワット未満で十分だが、外でデモするなら数ワット欲しい。近代的なテレビ球なので性能の良いものを作りたい。

 

通常思い浮かべるのはDEPP(通常のプッシュプル)だろう。でも、出力トランス付きのアンプでは、その性能がアンプを支配してしまうし、DEPPでまっとうなアンプを作ろうと思うと、出力トランスに結構なお金をかける必要がある。

 

それならSRPPでマッチングトランスを使ったアンプはどうだろう。そこで、マッチングトランスにはどんなものがあるのか調べてみた。

 

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結論から先に言うと、マッチングトランスは単にインピーダンスの比だけで選ぶのではなく、インダクタンスのあるもののほうが低域特性や出力に有利のようだ。上に挙げた他に、いろんなプッシュプルやシングル用のトランスで試してみたが、それぞれインダクタンスの少ない(と思われる)ものは得られる出力も小さかった。

 

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実験機では東栄のOPT-5Pを改造して使った。改造は、1次が5KΩのものを、B端子で1次巻線を切り離してそれぞれのP-B間を並列とした。これで1次インピーダンスは1.25KΩとなる。このトランスは通常のDEPPで使うと、すでに100Hzでも小出力の歪率が悪い傾向が見られるが、SRPPで巻線を並列にした場合なら大丈夫のようだ。

 

OPT-5P改でもかなりの高結果が得られた。出力は5%歪みで2.5W。これでも十分高性能だが、インピーダンスのミスマッチがあるかもしれない。 いろいろあって結局、マッチングトランスはトランス巻きで有名な方に巻いて頂くことになった。オリエント・コア(カットコア)のCS-20を使った1KΩ:8Ω、14W at40Hzという仕様だ。

 

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次に電源トランスだが、SRPPというと真空管の2階建てとなるので、+Bは高電圧が必要。でも電流はさほど必要なく、80mAもあればOKだ。市販のトランスを探してみたが、どうもぴったりくるものがない。じゃあ電源トランスを特注してみようか。

 

結局、春日無線変圧器のO-BS200型を使うことにした。SRPPアンプがモノにならなかった場合を考えて、両波整流でDEPPのアンプにも流用できるようにした。仕様は以下のとおり。

 

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この電源トランスの型番はH22-01251で、見積もりから2週間で出来上がったのが2010年の1月30日。この日から、アンプの本番機完成が10月28日だから、9ヶ月もかかってしまったわけだ。

 

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+Bには160V-0-160V間をブリッジ整流する。+Bを下げられるように、150Vのタップをつけた。結局はこの150Vタップを使うことになった。

 

既製品のトランスなら、春日無線変圧器のKmB100F2、ノグチトランスのPMC-100M、東栄変成器のP-75,P-100等があるが、280Vタップを両波整流で使用するので+B電圧は低めになる。

 

続いて回路設計。

 

初めの設計は+Bに420Vを予定していたが、試作機のチューニングで12B4Aが低めの電圧に適していることがわかり、最終的には368Vまで下げた。+BにはFETリプルフィルタを採用した。残留ハムが低く抑えられるのでおすすめ。

 

SRPPの回路設計は、基本的には自己バイアスの2段積みでやれば良いようだ。上側の真空管を負荷抵抗に見立て、ロードラインを電源電圧(+B)から狙いの動作点を結んで引く。厳密には違うかもしれないけれど、これで設計はできる。

 

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本番機の動作点からロードラインを引いたものを上に示す。プレート損失がMaxの5.5Wを上回ってしまっているが、これは上側の球と下側の球で電圧のアンバランスがあるためで、12B4Aを選別すれば5.5W以内に収まるものと思う。

 

試作機では特製マッチングトランスで2.8Wの出力が得られていたが、電源電圧を下げて12B4AのIpを増やしても得られる出力は減少しなかった。計算上は+Bが高く、ロードラインが寝ていたほうが高出力が得られると思うのだが、実際はそうでもないらしい。

 

試作の途中で初段管を12AX7から6N2P(6Н2П)へ変更した。理由は安かったから(笑)。いわば6.3V管の12AX7だがμは12AX7よりは低めで、ヒーターハムの影響を受けやすいようだ。

 

回路設計で気を使ったのはヒーター〜カソード耐圧(Ehk)だ。特に6N2PはEhkが100Vしかないので、SRPPの上下球を双三極管で使うと、それぞれのカソード電圧の中間あたりにヒーターバイアスをかける必要がある。12B4Aとヒーター巻線を共用するし、ヒーターバイアス電圧をどのへんに設定するか苦労した。

 

最終的な回路図は以下のようになった。

 

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なお、試作機のカップリングコンデンサは初め0.33μFだったが、SP端子オープンで入力を入れると2〜3Hzで超低周波発振が起きてしまった。

 

 本番機ではコンデンサの値を1μFに増やして発振が起きにくくなるように対策した。試作機では低域のスタガー比が取れていなかったためらしい。

 

ちなみにカップリングコンデンサデンマーク・イエンツェン(Jantzen)社の1μF 400Vを使用している。試作機で好印象だったので本採用となった。

 

本番機の製作では、ぺるけアンプ標準シャーシを使用した。夏の暑い時期だったのでシャーシ加工がしたくなかったから(笑)。それでも電源トランスやトランスケースを取り付けるために少々の加工が必要だった。また、GT管用に穴が開いているのでMT管用のサブプレートを使用したが、取り付け寸法が合わずサブプレートのビス穴を加工している。

 

トランスケースはWELCOME製の70mm×70mm×90mmだ。多少値が張るけれどもつくりは精巧でしっかりしている。鉄製の2mm厚で防磁性も十分と思う。色はチャコールグレーメタリックのを購入した。

 

電源トランスもガンメタリック等の類似の色で塗装するんだった。傷防止用のカバーを付けていたので気が回らなかった。もう配線してしまったので今更外して塗装する気になれない。

 

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アンプ内部の画像。簡単な回路と相まって、配線は少ないしあまりCR部品がついているように見えない。ここらへんはアンプ作りで楽しいところだからじっくりやった。

 

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本番機の諸特性を以下に示す。 左chのほうが周波数特性が広帯域でDFが高いのは、利得の低い右chに合わせてNFB量を増やしているため。だからNFB量は6dBより多いけれど、NFB抵抗を外して裸利得を調べるのは面倒だから大体6dBってことで勘弁してね(笑)。

 

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周波数特性は6dB程度のNFBにもかかわらず広帯域だ。215KHz付近に小ピークがあるが、マッチングトランス単体では無かったから、何かの共振でも起きているのだろうか。まあ-8dB以下なので、発振などの不安は無いと思って位相補正はしていない。

 

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出力が増すにつれてカーブが直線的に増えているのは2次歪み主体のため。5%歪みで3Wの出力が得られている。自宅の環境では3Wというと爆音になってしまうので、これだけの出力があればOKだ。

 

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私の配線技術でもこれだけの特性が得られるんだから大したものだ。これなら差動アンプも目じゃないね(笑)。低域でクロストークの悪化が見られないのはFETリプルフィルタを採用したからに違いない。

 

最後に試聴結果を。傾向は試作機と同じだから、私より耳の良い?妻の感想を引用すると、透明度が高く、各楽器の特徴が良くわかる、低音が団子にならずよく聞き取れる、とのこと。

 

ヴォイシングチャートではクールでシャープな位置づけだ。でも、どのアンプにも音源により得手不得手があるように、このアンプは女性ボーカルをつややかに、しっとりと歌い上げるといった表現はあまり得意ではない。ここらへんは前作の6N6P直結パラシングルアンプのほうに軍配が上がる。

 

ところがオーケストラの音源になると、俄然実力を発揮し、音場の表現や楽器を魅力的に聞かせるところなどが素晴らしい。自画自賛なので、そこのところ差し引いて読むように(笑)。

 

ずいぶんと長文になってしまった。最後まで読んでくれてありがとう。

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