おんにょの真空管オーディオ

おんにょの真空管オーディオ

古(いにしえ)の真空管を使った好音質のアンプで音楽を聴きましょう。(お約束事) 追試は歓迎しますが自己責任でお願いします。

ミニワッターCIRCLOTRONアンプ・総集編(1)

コトは、とある掲示板に私がミニワッターCIRCLOTRONに興味あり、と書き込んだところから始まる。 なんとARITOさんに専用出力トランスを巻いて頂いた。仕様及び特性は以下のとおり。

画像
画像
画像
画像

P-P間4KΩで小出力に対応したプッシュプル用出力トランスは市販品に存在しない(例えば東栄のOPT-5PはP-P間5KΩであるが、1次側巻線抵抗は324Ωと今回のトランス106Ωの3倍もある)し、1次インピーダンスが低く高性能なトランスが作りやすいとの事。

 

・出力管の選定

出力トランスはP-P間4KΩなので、通常のDEPPでは4倍の16KΩに相当する。これに適した真空管は12AU7あたりだろうか。私は当初何も考えず手持ちのロシア管、6N6P(6Н6П)を使うことにした。6N6Pのrpは1.8KΩと強力で、この出力トランスにはrpが低めなのだ。

 

・初段回路はカスコード

6N6Pをドライブするためにはどんな回路が良いか。CIRCLOTRONはCSPPと同様、高いドライブ電圧が必要らしい。今回は半導体ドライブでFETとトランジスタによるカスコード回路で行くことにした。

 

・電源トランス

CIRCLOTRONでは出力段の電源にステレオで4つのフローティング電源が必要だ。だから電源トランスも特殊となり、ARITOさんへ製作をお願いした。 電源トランスには4つのフローティング電源、カスコード回路用の電源、ヒーター電源、-C電源が必要だ。このうち-C電源はヒーター電源から取ることにした。 電源トランスの仕様は以下のとおり。

画像

・出力の計算

片チャンネルだけの実験機を組んで、6N6Pの動作点と出力段の利得を測定してみた。 ロードラインは出力トランスのP-P間インピーダンスの値で引く。DEPPと同様、管の動作点Ebb、Ip=0mAからスタートしてOPTのP-P間インピーダンスの直線を引き、Eg=0Vのラインと交わる点がEpmin、Ipmaxとなる。 出力は(Ebb-Epmin)*Ipmax/2で計算できる。

画像

試作機の実測で動作点はEbb=200V、Ip=10.6mAだったから、Ebb=200V・Ip=0mAの点から出力トランスのP-P間インピーダンス4KΩの直線を引いて、Eg=0Vと交わる点はEpmin=85V、Ip=29mAとなった。

出力Po=(Ebb-Epmin)*Ipmax/2=(200-85)*0.029/2≒1.7Wとなる。

 

・出力段ドライブ電圧の計算

CIRCLOTRONではカソードとプレート両方から出力されるので、三極管でも五極管でも利得は1倍より大きく2倍未満のどこかになる。試作機の出力管での利得は1.67倍となった。 出力トランスの変圧比は√(4KΩ:8Ω)=22.4:1。計算上の出力は1.7Wだから、出力トランスの2次側に8Ωをつなぐと電圧は√(1.7*8)≒3.7V。出力トランス1次側では3.7*22.4=82.9V。これを出力管の利得で割るとドライブ電圧は82.9/1.67=49.6Vとなる。プッシュプルなので片側の管では半分のドライブ電圧でOK。だから49.6/2=24.8V。 なお、これは実効値だから、49.6*2√2=140Vp-p 24.8*2√2=70.1Vp-pが出力段のドライブ電圧となる。実際は出力トランスの損失があるので、その分を加えてやる必要がある。 試作機でのドライブ電圧は、ピークが完全につぶれた状態で144Vp-pだったからフルドライブできていないことになろう。但し、出力を当初目標の1Wとすれば問題ない値だ。十分な値となった。 ※プッシュプルであることを考慮していなかったため、加筆訂正。2011/3/22

 

・初段利得の計算

総合利得を10倍程度と仮定すると、初段カスコード回路の利得はどれくらい必要だろうか。 初段の利得をX倍とすると X*1.67/22.4=10 これよりX≒134倍、NFBを6dBかけるとしたら134*2=268倍。 実際は出力トランスの損失があるので300倍程度は必要になる。 本来ならカスコード下側FETのgmとロード抵抗から初段利得を計算して設計するのが筋だが、試作機で初段カスコードの利得を測定したら差動の片側で360倍あったのでOKとした。

 

・最終回路

設計の結果、回路は最終的に以下のようになった。出力トランスは1次側のDC電流を厳密にバランスさせる必要があり、DCバランス回路を追加している。

画像

本当は高域特性の検証、低域特性の検証が必要だが、それをせずに実験機で確認するに留まっている。このへんは他の書籍で勉強するとか、今後発刊されるであろう、ぺるけさんのミニワッター本に記載される内容で検証すれば良いと思う。 長くなったので、総集編(2)へつづく。