シングルアンプで小型の出力トランスを使うと、歪率特性では100Hzのカーブが他の1KHzや10KHzに比べて高めになることが多い。これはトランスのコアボリュームが小さいためと説明される。
拙71Aシングルアンプも100Hzの歪率カーブは他の周波数に比べて悪めである。
次に出力を変えて周波数特性を取ってみたのが上のグラフ。それぞれ1KHzの出力を0dBとしてある。12.5mWや31.3mWでは10Hz以下、125mWは20Hz以下、500mWになると70Hz以下でカーブが下降している。NFBをかけても、それ以下の周波数ではもう出力は出ませんよ、ということだ。
出力が増えるとその周波数が上昇していくのが見て取れる。ところが、その周波数までフラットなんだから、そこまでは綺麗な波形で出力が出ているかというとそういうわけではない。
上のグラフは出力を一定にして、周波数毎の歪率を取ってみたもの。なんだかフレッチャー&マンソンの曲線みたいだが別物だ。歪率の測定にはWavespectraを使用したが、設定がいいかげんなのであくまで参考程度。
500mW出力時の波形をオシロで観測したら、増幅段ですでに歪んでいるのがわかったので、それを踏まえてグラフを見て欲しい。
大体200Hzあたりから下の周波数では歪率が悪化、それ以上では20KHzまではほぼ一定、出力が増えると歪率のカーブが悪くなっているのがわかると思う。
数百Hzから下で段々歪率が悪化しているのは、出力トランスの飽和によるものだ。人間は歪率が1〜2%になると歪んでいることを検知できると言われているから、12.5mWで20Hz、31.3mWで30Hz、125mWで50Hzあたりが検知できる上限の周波数ということになる。
100mWというと、我が家では普通に聴いている平均音量なので、50Hzまで歪みを感じないで済むわけだ。実使用上、71Aシングルアンプにおける出力トランスの飽和は気にしないで良いレベル、といえるだろう。
小型シングル出力トランスの飽和を避ける1つの方法は、トランスにDC電流をなるべく流さないこと。出力管をいたわるというか、出力を欲張らないというのも設計方法として挙げることができると思う。