とある方から真空管アンプの製作依頼があった。それは12A5を使ったシングルアンプで、電圧増幅段にはECC85か6DJ8、整流管にAZ11を使用してほしいとのこと。12A5・ECC85・6DJ8・AZ11は依頼者様支給。

12A5は電力増幅5極管で形状はST-12の小型なもの。ヒーターは6.3V0.6Aないし12.6V0.3A。Ep max=180V、Eg2 max=180Vと低く、トランスレスラジオ用と思われる。Pp max=8.25W。

ベースはスモールUT(7ピン)ソケットと特殊なもの。

3結で使用することとし、3.5kΩでロードラインを引いてみた。12A5の3結での特性図はEp-IpCurveデータ集より引用。バイアスが-39Vと深く、大きなドライブ電圧が必要。動作点におけるプレート抵抗rp=1430Ωは低め。
AZ11は直熱の両波整流管でフィラメントは4.0V1.1Aの定格。整流後のコンデンサは60μFまでとなっている。これもソケットが特殊だ(冒頭画像参照)。
電圧増幅段は双3極管を使うならどうするか。初段はFET~3極管カスコードとし、直結でカソードフォロアとした。これなら双3極管でピン接続が同じならいろんな真空管が使える。ECC85の他に6AQ8、6DJ8系(ECC88、E88CC、6922、6N23P)や6N1P、6BQ7A、6FQ7、6CG7なども挿し替え可能と思われる。
12A5はA1級で使用し、電圧増幅段とはカップリングコンデンサを介して駆動する。これならカップリングコンデンサをいろいろ変更して音色の変化を楽しめる。カソードフォロアの出力はDC106V程度しかかからないので、コンデンサの耐圧が250V以上あれば使用可能だ。
OPTの1次インピーダンスは3.5kΩのものということで、東栄変成器のOPT-5SRを採用。出力容量は5Wで、高域が素直なのでNFBをかけても不安定にならない(これ重要)。
本機の回路を上記に示す。電源部PMC-100Mの240VタップをAZ11で両波整流し、FETリプルフィルタを通すことで低出力インピーダンスの+B電源としている。シャーシ上は真空管とトランスしか並ばないので、半導体を使っていることを意識させない。

本機の諸特性を上記に示す。出力は1.1W~1.2Wとなった。NFBは6.2dB~6.5dBかけている。DFは3.6とまあまあの値。rpが低めだからもっとDFが増えるかと思ったのだが。残留ノイズは0.1mV~0.14mVと低い。
Analog DiscoveryによるNFB後の周波数特性。両チャンネルが揃っており、高域の低下が素直だ。

クロストーク特性。20Hz~20kHzでは-62dB以下となった。

Lchの歪率特性。0.1Wにおける歪率は1%前後であまり良くないが、各周波数で違いがない。

Rchの歪率特性。Lchと同様だった。
[10kHz方形波、ダミーロード8Ωでの出力2Vp-p、100mV/div(プローブ10:1)、20μS/div]
SP端子に0.047μF~0.47μFのコンデンサをつないで方形波観測し、ダミーロードをオンオフしても発振しないことを確認。
使用機材
ファンクションジェネレータ GW Instek AFG-2105
ミリボルトメータ LEADER LMV-181B
デジタルオシロスコープ IWATSU DS-5105B
オーディオアナライザ Panasonic VP-7721A
ANALOG DISCOVERY 2
PC Lenovo ThinkPad E14 OS Windows11 Home 23H2
レイアウト図を上記に示す。今回はオーソドックスな配置とした。シャーシは株式会社奥澤のアルミシャーシでO-45(W300mm×D170mm×H50mm t=1.5mm)。
穴開けは自分で行い、ダークブルーマイカで塗装し、磨き仕上げとした。
いつものとおりブツ撮りをしたので掲載。
シャーシ内部。グレーの四角いのがカップリングコンデンサ。出力段ショートループのコンデンサは置き場所に困ってシャーシに貼り付けボスで固定してある。
3階自室で試聴。これは依頼者様で聴いて判断してほしい。私が書くとバイアスがかかってしまう。1つだけ書いておくと、6DJ8よりECC85のほうが自分には合っていると感じた。他にもいろんな双3極管が使用可能なので、いろいろ試してみてベストの真空管を探して下さい。
(2024.12.07追記)
アンプは依頼者様へ送付完了。果たして気に入って頂けるだろうか。
夕方に返信あり。どうやら気に入って頂けたようだ。良かった!














