私のはいいかげんな回路設計なので、完璧な回路設計を是とする人には突っ込みどころが多いと思うけど、拙300Bシングルアンプの留意点を書き出してみた。
①OPTが5kΩ
300BシングルアンプというとOPTが3.5kΩのを使うのが一般的なのだけど、5kΩなのはわけがあって、もともと2A3(6B4G)用に入手した電源トランスを使いたかったから。
300Bの動作点はEb=330V、Ip=53mA、Eg=-70V。ロードラインを3.5kΩにして立てて使うとIpが増えて電源トランスの+B巻線の電流容量が足らなくなる。だから寝かせてIpを抑えている。
② ハムバランサが無い
レギュレータによるDC点火だからハムバランサを省略。抵抗2本で代用した回路を見るけど、私はコレのマネをしている。フィラメントの電圧勾配が5Vあるので熱電子放射が偏ると思うのだけど、フィラメントの抵抗値は3.3Ω(5V1.5A)しかないので53mAが偏ったとしても無視できるのではないかと考えた。
③ 初段がFETと3極管のカスコード
アンプ部に半導体を使うのは嫌という人が多いと思うが、初段で186倍(LTspiceのシミュレーション値)を稼いでいる。初段を5極管で振るWE91タイプが有名だけど、5極管1本でこれだけの利得を稼ぐことができるのだろうか。
DACの出力が0.64Vなので、利得を15倍〜20倍にしたいためアンプの利得を多めにしている。CDプレーヤーの出力2Vを直結するならもっと減らさなければならない。DACにボリュームがあるのでアンプにはボリュームを入れていない。
私は電圧増幅段と出力段で歪みの打ち消しをしている。直線性の良い300Bといえども大振幅での2次歪みからは逃れられない。カスコードは2次歪みの多い回路なので、うまくいくと低歪みのアンプを作ることができる。
0.33uFと470kΩで低域カットオフは1Hzに設定している。低域まで伸びた回路なので、このカットオフによる影響を避けたかった。出力段とカソードフォロアが直結なので、カスコード出力にカップリングコンデンサを入れている。
⑤ 位相補正容量を入れていない
私は高域設計がいい加減で出たとこ勝負なので、初段と出力段のカットオフ周波数が重なってピークが出るかどうかは設計で考慮していない。普通初段を伸ばして出力段を低く設定するのがセオリーだと思うんだけど(逆もあるだろう)、NFBをかけていって高域にピークが生じない値としている。NFB量が4.3dBという中途半端な値なのはそのせい。位相補正容量は音の影響が出やすいので、なるべくなら入れないようにしたい。
⑥ チョークコイルとFETリプルフィルタ
+Bは1HのチョークコイルとFETリプルフィルタを組み合わせている。FETリプルフィルタだけでも良いし、チョークコイルだけにするのならもっとインダクタンスの大きいものを使わないといけない。
チョークコイルはFETリプルフィルタに入力するリプルを減らすためで、LTspiceのシミュレーションでは約20Vp-pあったリプル(赤)を約1Vp-p(緑)まで減らしている。だからFETリプルフィルタの入出力電位差を低くでき、FETの発熱を抑えることができる。
FETリプルフィルタの出力インピーダンスは2Ω程度となっており低域まで一定なので、左右チャンネルの+Bを共用してもクロストークの悪化が少ない。
⑦ -C1電源にツェナー
300Bは固定バイアスのため、AC100Vの変動によりプレート電流が変動しやすい。ツェナーを入れることで影響を減らすことができる。設計はこちら。結果はAC100Vが1V増加するとIpは約0.4mA増えて正の相関を示した。
⑧ -C1電源
回路が複雑なのはボリュームによる-C1電圧の可変範囲を設定したかったため。470kΩはボリュームの接点がもしも浮いた時に-C1電圧を下げて300Bをカットオフしプレート電流の流れ過ぎを防ぐ。
⑨フィラメント電源にレギュレータ
LDOのレギュレータLD1085を使い、電源トランスの6.3Vタップから5VのDC点火としている。ショットキーバリアダイオードブリッジRBA-406Bで順電圧を低く抑えている。逆電圧が低いものほど順電圧が低い傾向がある。整流後のコンデンサは4700uFが4個並列で18800uFとなっているが、15000uFあればリプルが出てくることが無いのを実験で確認している。あまり容量を増やすと突入電流でダイオードが壊れる恐れがある。
⑩ 補助電源トランス
電源トランスの+Bが250Vと低いので、補助電源トランス(30V0.2A)を直列にして+B電圧を高くしている。2次側の位相を逆にして使えば電圧を低くすることができる。直列なのだから電流は同じで異常電流が流れるとかトランスに負荷がかかるとかは無い。